思考と創造性

2021-08-26
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ことばは人の特徴の一つですが,コンピュータ言語に対する人の言語の大きな違いの一つは,その柔軟な「使用」です.コンピュータ言語は1文字でも違えばエラーになりますが,人が書き,話すことばは,コンピュータから見れば間違いだらけです.それでも我々は何事も無いようにことばを使います.その背後には,単に人の言語理解がノイズに対して頑健なだけでなく,アナロジー,概念メタファー,アブダクションといった,現在の機械には備わっていない人間特有の思考能力があります.人はことばの使い方を自在に「産み出し」それを「拾い上げる」のです(ことばはヒトでもモノでもないのに!).これらの思考能力は,人が未知の状況を柔軟に理解・対処することを可能にしています.

従来の自然言語処理は,(ときに曖昧・非合理・不適格ともされる)柔軟な人間の言語使用に手を焼く一方で,(面白い現象ではあっても)周辺的で些末な問題として無視してきました.その理由の一つには,扱いたくても扱いようがなかった,という側面があります.しかし,近年の深層ニューラルネットワークに基づくアプローチの発展によって,より人間的な言語の使用と思考を機械で扱える可能性が見えはじめました.

我々は現在,述語論理(数理論理)以前から知られていた項論理とよばれる古い論理形式と,多次元ベクトルによる意味表現を組み合わせた知識表現の枠組みを考案し,その枠組の上で,アナロジーなどに基づく柔軟な推論が可能な推論システムを深層学習技術により実現する研究に取り組んでいます[1].

その先は,イソップ童話などの物語の意味や,例え話しを理解したり,人と言葉遊びを楽しめるような対話システムの実現につながると考えています.

関連発表文献

[1] 船越: “非公理的項論理:認知的記号推論の計算理論”, 人工知能学会論文誌 Vol. 37 No. 6, (2022) https://doi.org/10.1527/tjsai.37-6_C-M11